夏のある日の彼ら
勾陣がふと台所を覗くと、紅蓮が何やら思案顔でテーブルに肘をついて、あーでもない、こーでもないとぶつぶつ呟いていた。
「騰蛇?何をしているんだ」
「勾か。丁度いいところに来た。今日の晩飯、何がいい?」
「…いきなりそう言われても、すぐには思いつかないのだが」
考え事をする時の癖で、口元に手をやりながら、勾陣は壁に掛かったカレンダーに目をやった。
そうか、今日は土曜日だから六合は泊まりで、だから騰蛇が晩御飯担当か、などとつらつらと考えつつ、頭の中に浮かんだ事を口にした。
「…野菜が食べたい」
「野菜?…何つーか、こう、もっと具体的に言ってくれ」
「何だ。注文の多いやつだな。そうだな…どうせお前は何を言っても煮込み料理にするのだろう。じゃあ
ラタトゥイユがいい」
「
意外な答えだな。材料あったかなー」
がたり、と椅子から立ち上がり、冷蔵庫の野菜室をごそごそと漁る紅蓮の背後から、同じように野菜室の中を覗き込んだ。
トマト・茄子・人参・パプリカ、納戸には玉葱があるし、それなりに野菜はありそうだ。
紅蓮は煮込み料理しか作らない、むしろ作れないの間違いなのだが、その分、味は絶品だということを勾陣は良く知っている。
晩御飯が楽しみだ。
「なあ、ズッキーニの代わりに胡瓜じゃだめか?」
「嫌だ」
「…文句多いな」
溜息を一つついて、紅蓮はよっこらせと立ち上がり、買い物へ行く支度を始めた。
この際だから、他にも何か足りないものがあれば買ってしまえというつもりだろう。
「騰蛇」
「あぁ?何だ」
「私も行っていいか?」
「別に構わないが、珍しいな。お前が行きたがるなんて」
「何となくだ。たまにはいいだろう」
「その分、しっかり荷物は持ってもらうからな。覚悟しとけよ」
「ほう、女に重い物を持たせるつもりか」
「何を今更」
気心の知れた仲ゆえの軽口を叩き合いながら、夕方とは言えまだまだ明るい空の下へと二人は繰り出した。
「…そう言えば、何でラタトゥイユなんだ?」
「別に。何となくだ」
「そうか」
仄かな笑みを滲ませて答える勾陣の横顔をちらりと盗み見て、紅蓮もまた、微笑した。
言葉数は少ないが、彼らにとってはその遣り取りだけで十分だった。
fin.
またお買い物ネタかよ
そして微妙にシリーズ化されそうな気配
夏野菜で煮込みっつったらラタトゥイユでしょというお話
06.9.27.