十一夜の夢
私は愛機のサザーランドに騎乗していて、敵と交戦中である。
相手のナイトメアはブリタニアでは見たこともないタイプだ。信じがたいが、ブリタニア以外の国が独自に開発したのだろうか。まさか。ブリタニア人よりも劣っている奴らにそんな技術があろうはずもない。赤いその機体は驚くほどのスピード力をもってこちらに接近してくる。あれだけの機体を乗りこなすことができるパイロットが敵方にもいるのか。その向うには敵指揮官のものと思しきナイトメアがあった。私は何故だかわからないが、あの指揮官を何としてでも追い詰めなくてはならないという使命感に駆られていた。しかしそれには目の前の赤いやつが邪魔だった。その右腕は大きな鍵爪状になっている。恐らく何か特殊な装備があるに違いない。
私は右腕に注意しながら間合いを取った。しかし敵ナイトメアの動きはそれを上回った。敵は素早く右腕を伸ばすと私のサザーランドの頭部を例の鍵爪で捉えた。直感的に、グリップを握る私の手は緊急脱出装置のレバーへと伸びた。けれども、私の中のプライドがレバーを引くことを躊躇わせた。惰弱な劣等民族に屈するのか。この辺境伯たる私が。それに私は指揮官を倒さなくてはいけない。ここで退くわけにはいかないのだと自分に言い聞かせた。
その刹那、敵機の鍵爪から何か電気、いや火花を伴った電磁波のようなものが迸った。それは瞬く間にサザーランドへと到達し、コクピットの私のところへも届いた。
まるで身体中の血が沸騰するようだった。想像を絶する衝撃が私の身体を駆け抜けた。モニターには脱出するよう必死に促す部下の姿が映っていたが、すぐにそれもショートして見えなくなった。一体自分の身体がどうなっているのか、私には皆目検討がつかなかった。私の記憶はここで終わっている。
次に気がついた時、私はベッドの上にいた。身を起こした私は掌と云わず首筋と云わず、兎角全身に厭な汗をかいていた。
カーテンの向こう側は薄暗い。どうやらまだ夜明け前らしい。私の傍らには昨晩と違わず、褐色の肌をした女が寝息を立てている。私の気配で目が覚めたのか、女は寝返りをうって瞼を上げ、琥珀の色をした瞳でこちらを見上げ「いかがなさったのですか?」と聞いてきた。
「いや、何でもない。ただちょっとつまらん夢を見ただけだ」と私は云った。そうして私は再びシーツに身を沈め、女を 一人の女でもあり、私の片腕とも呼べる存在でもあるその女を 腕の中に抱いた。
後日この話をしたところ、私の片腕はそれは予知夢というものではないかと云った。私はそれ以降ついぞ夢の話をしなくなった。
fin.
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