黄色い悪魔(紅蓮+勾陣)




春一番の報せと共に、それはやってきた。

縁側でのんびりと昼寝を楽しんでいたはずの物の怪は、現在不本意ながら同胞の腕に抱かれている。
動物扱いするな!と吼えてみれば、じゃあぬいぐるみだ、と返されて、むむ、と押し黙るしかない。
どうやら彼女の中では、物の怪は専用抱き枕と同じ扱いらしい。

「…何か、納得いかないんだが」
「そうか。気にすると終わりだぞ」
「あのなあ…」

ぽふぽふと頭を撫でられて、半眼になる。
今に始まったことではないのだが、やっぱりこれはどうなのだろうか。
つらつらとそんなことを考えていると、不意に鼻がむずむずしてきた。

「…へっぷし」
「どうした、騰蛇。風邪か?」
「んー…?」

ずず、と鼻をすすりながら、物の怪は首を傾けた。
片耳をそよがせて、無意識のうちに今度はかしかしと目を掻く。
その様子を眺めていた勾陣は、抱え込んでいた物の怪をくるりと反転させて目の高さまで持ち上げた。

「ああ、目が赤くなっているぞ…それは元からだったか」
「おい」
「冗談だ。もしかして、花粉症か?」

くしゃみに、目のかゆみとくれば、どう見ても花粉症の症状である。
しかし、果たして物の怪に花粉症などあるのだろうか。些か疑問だ。
そう言えば、小動物は鼻呼吸なので鼻が詰まると死ぬと何かの本で読んだ覚えがある。
これは物の怪にも当てはまるのかどうか。

「勾…今何を考えていた?」
「別に」
「そうか〜?」
「ところで、私はお前が花粉症だったという記憶なぞないんだがな」
「俺もだ。去年までは普通だったはず…っくしょん…んー…あー?」

しぱしぱと瞬きを何度かして、物の怪はひょいと勾陣の腕の中から飛び下りると、人身を取った。
突然高くなった目線に、勾陣は訝しげな瞳を向けてくる。
その隣にすとんと腰を下ろして、紅蓮は腕組みをした。
別に何ともない。

「…何だこれは」
「どうやら、物の怪の姿の時だけ症状がでるらしいな」

面白そうに喉の奥で笑った黒髪の同胞を、紅蓮は無言で抱き寄せた。

fin.

もっくん、花粉症になる