来る年の誓い




 しばしばと何度も瞬きを繰り返して、重たい瞼を擦っていた少女はついさっき、とうとう炬燵に突っ伏したまま寝息を立て始めた。炬燵の熱のせいだろう、ほんのりと赤みを帯びている頬と穏やかな寝顔だけを見れば、まだまだ稚い、ほんの少女でしかない。
「……結局、今年も寝てしまわれたか」
 少女を挟んで反対側に座る阿曇が愛おしげに目を細めて頬杖をついている。朋輩の言葉を引き継いで、「毎年朝まで起きて初日の出を見るのだと仰っているが……」と益荒も微かに口元を緩めた。
 結局、実現できたのはこの数百年、いや、それ以上の歳月の中でも片手で足りるほどでしかない。影伊勢にあった頃は、玉依姫の地位にある者として常に気を張っていたから大晦から元旦にかけて夜通し寝ずに祭壇の間に座していたこともあった。けれど、海津宮からこの地に移って以来、少女の纏う気も少しずつ穏やかになってきて、年相応の振る舞いを見せるようになった。
 眠ったままの少女をカーペットに横たえ、額にかかった前髪をそっと左右に除けた阿曇は静かに立ち上がる。色素の薄い髪が視界の端を横切り、台所に向かった気配を背中で感じながら益荒は点けっぱなしになっていたテレビを消した。途端に夜の静寂が訪れる。
「益荒」
 背後から伸びた手がワインボトルと缶ビールを炬燵の上に置く。視線だけをそちらにやると「折角だ、朝まで飲み明かそう」と阿曇がグラスをもう片方の手に持っていた。
「朝まで……」
「それで初日の出の時分に斎さまを起こせばいい」
「……ああ」
 そういうことか、と頷いて益荒はそれまで座していた場所から斜め前に座り直し、コルク栓を抜いた。勿論阿曇をわざと狙うような真似はしない。スパークリングではないから別に問題はないが、そういう心づもりだ。二つのグラスにワインを注いでいる間に阿曇が酒肴やらを手にして戻ってくる。
「さて」
 きちんと背を伸ばして座った朋輩と向かい合い、グラスを目の高さに掲げた。
「今年も、我らは斎さまの為に……なぁ、益荒」
 ふと阿曇の切れ長の目が不敵に笑んだ。釣られて益荒も眉間に皺を寄せる。
「……邪魔者は全力で排除する。わかっているな、阿曇」
 例え相手がどちらであろうと容赦はしないが、部外者には情けなど一切くれてやるまいぞ。
 それが、毎年の二人の目標である。

fin.

10.1.1

10.3.19. memoから移動