春のある日の彼ら
目の前の真っ白い毛並みを眺め、勾陣はおもむろに手を伸ばした。
「おわっ!?」
昼寝の邪魔をされた物の怪が、じたじたと手足をばたつかせ、暴れる。
それを大して気にも留めず、白い毛皮をすっぽりと胸に抱いた。
「勾〜、折角ひとが気持ち良く昼寝してたってのに、邪魔するな〜!!」
不機嫌そうに唸る物の怪に、くつり、と喉の奥で笑い、ふかふかとしたその背に顔を埋めた。
陽の光を目一杯浴びた毛皮は、太陽の匂いがする。
「…温かいな」
小さく呟いて、今度はくるりと首に巻いてみる。一度で良いから、これをやってみたいと、常々思っていた。
ごにょごにょと何やらごねている様だが、それはまぁ、気にしない。
昌浩の気持ちが、少しだけ分かった気がした。
いつまでも巻いているのも可哀想なので手を離すと、予想通り物の怪は逃げ出した。
すかさず、その長い尾を掴む。
「……いい加減にしろ」
すっと、声が低くなる。
あぁ、怒っているな、と思いつつ再び胸元に物の怪を抱えると、ぽす、とその場に横になる。
「適当に起こしてくれ」
そう言うと勾陣は瞳を閉じた。
「おーい……勾?もしもーし…」
返事は、ない。
物の怪は、ぱたり、と尻尾を揺らした。
「……俺は、どうしろと?」
このまま、彼女の寝顔を見続けろ、と?
ちらりと見上げると、すっかり気を抜いているのか、普段の苛烈さは全く窺えない。
これはこれで、かなりオイシイ状況ではある。
ただ、勾陣の目が覚めた時に、何と言われるか分かったものではないが。
「ま、良いか」
片方の耳をそよがせて、物の怪もまた、目を閉じた。
「勾陣…?」
天后がたまたま居間を通りかかると、そこには日の当たる窓際で何やら白いもの抱えたまま寝息を立てる親友の姿があった。
もこもことしたその白い毛玉は、どうやら騰蛇のようで、十二神将でも最強とそれに次ぐ彼らがこうして無防備な様子を曝け出しているというのはそれなりに珍しい。
「……起こすのは、何だか申し訳ないかしら」
騰蛇に買い物を頼もうと思っていたのだけれど、と続けて、それでもやはり折角気持ち良さそうに寝ているのだから、と彼女は思い直し、隣の和室の押入れからブランケットを取り出して、そっと二人に掛けた。
買い物は、天一と朱雀にでも行ってもらう事にしよう。
fin.
春眠暁を覚えず
でもこれは昼間の話なので当てはまらない
たまにはこんな日常もありでしょう
06.4.11.
06.9.27.「うたたね」→「春のある日の彼ら」に改題